雨、ときどき快晴。

昨日はさんさんと陽射しが降り注ぐ
午後の病院で、
父と静かな時間を過ごした。

乾いた口元にリップクリームを塗ってあげ、
つめたくて細い手指には
ハンドクリームを塗り込んで、
それから足の爪を切って。

ぱちん、ぱちんという規則的な音と
わたしが話しかける小さな声だけが
病室に響く。

娘にしてやるように、
食べやすいようにイチゴを小さくカットしていると
急に悲しみが押し寄せてきたけれど
なんとか口元をしっかり保って
イチゴを見せると、父はいらないと首を振る。

午後の陽気の中、うつらうつらしているのを眺め、
父の目が覚めたときに、ふいに
「わたしのこと、わかる？」と聞いてみた。

「やえだろう。いつもありがとう」と言う。

今日はわかるんだ。
そして、ありがとう、と・・・
それだけで救われた気持ちになる。


病院へ向かう行きの道で、
長い長い渋滞の先を見ながらドッと疲れが出てきて
しんどいなぁ、これがいつか、
報われる日が来るのかなぁ・・と考えた。

こうして、いろいろ自分のやりたいことをガマンして
カレンダーとにらめっこしながら
病院へ通い続ける今。いつかこれが報われるのか？

いや、報いなどないな、と思った。

親の介護の最後は看取ることなのだから
そこに喜びや報いなどないのだ、と。

親を看取り、そこでもし何かを得られるのだとしたら
大変だったけど、できる限りのことはやった、
自分にできる精いっぱいを尽くしたと言える、
後悔をしないための、自分への「救い」
それが得られる唯一なんだろう。

だから、こうして父のために通うことは
自分自身への救いでもあるんだ。

そう思ったら、すこし楽になった。

もっとしてあげればよかった、
もっと会いに行けばよかった、
そう思いながらこの後の人生を生きるのはつらい。

だから今日を自分のために使わず、
こうして父のもとへ行くのは間違っていないのだ、と。

そして、帰宅して
「ディズニーランドに行けなくて残念だったけど
近いうちに晴れたら絶対に行こうね」と言って
娘を抱きしめる。

少しでもうれしくなれるようにと、
娘の大好きなスイートポテトを作って焼くと

「ママ、おいしい！作ってくれてありがとう。
しーちゃん、これ大好きなの。また作ってね」

と、娘のまんまるの笑顔。

その笑顔を見ただけで、疲れも葛藤も溶けだしてゆく。

ここでも、救われている。
いつもいつも、その笑顔をありがとう。