遠い冬の記憶たち | 雨、ときどき快晴。

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気の向くまま、風の向くまま、生息中。ただひたすら怠惰に眠るのが、目下の夢。
気の向くまま、風の向くまま、生息中。

ただひたすら怠惰に眠るのが、目下の夢。
遠い冬の記憶たち

遠い冬の記憶たち

遠い冬の日。

まだ上の甥っ子が3歳か4歳だった頃、
驚かせようとして
背中にすっと冷たい手を入れた。

「わあっ!!」と甥っ子はのけぞって
「びっくりしたでしょ!」と笑ったけれど
驚かせたことよりも、
甥っ子はわたしの手が冷たいのを気にして
「やえ、手を入れていいよ」と
服の首の後ろを引っ張って、
再度冷たい手を差し込むスペースを
作って見せた。

わたしは驚かせようとした心もしぼんで
「冷たかったでしょ?大丈夫だよ」と言うと
彼はあたたかい手で
わたしの指先を握ったのだった。


もっと遠い冬の日。

子どもの頃。


雪が降ると、
際限なく雪遊びをする兄について
一緒に外に出たはいいけれど
寒いのが苦手なわたしは途中でくじけてしまい、
半べそになると
兄は自分の手袋を外して
わたしの小さな手を両手で包んで
はぁーとあたたかい息を吹きかけた。

雪が降りしきる中、
何度も何度も息をかけるうち、
やがて兄の手のほうが冷たくなっていった。

冬に手袋を外すとき、
ふいにその情景がふわりと浮かんで来て
胸が締め付けられるような気持ちと
あたたかさが同時にやってくる。


そして。

一番遠い、冬の記憶。

冬の夜。
いつまで経っても足があたたかくならずに
眠れなくてぐずると、
そんな時は父が自分のふとんに入れてくれて
足を挟んであたためてくれた。

足を温めながら、時々足の指先で
ぎゅうぅ、とつねってくるので
「いたい!」と大笑いしながら。

眠れずに「うさぎの耳はどうして長いの?」など
とりとめのないことを聞くと
「どうしてだろうね?考えてごらんよ。
わからなかったらうさぎに聞くといいよ。
お父さんよりくわしいだろうから」と
父は言うのが常で、
それは今なら逃げ口上だとわかるけれど、
当時は答えがないぶん、
あれこれと際限なく想像をした。
その想像力がわたしの一部になっていると今では思う。

足も心もじんわりとあたたかくなって
やがて眠くなる、その時間が大好きだった。


昔から手足が冷たくて、
寒いのがとても苦手なのに
冬が一番好きな季節だというのは
きっと、冬のこうしたあたたかい記憶に
支えられているからなのだと思う。

父が昔してくれたように
今では自分が子ども達の足を温めている。

「寒い」とか「つめたい!」と言いながら
子ども達はベッドにもぐり、
ぎゅうぎゅうに身体を寄せてくる。

上気した頬を撫でて
からみついてくる足を挟んで、温める。

キャーキャー言っておしゃべりしながら
少しずつ声の間隔が長くなり、
すぅすぅと健やかな寝息が聴こえてくる。

じっと寝顔を見て、
やわらかい髪に触れて頭を撫でる。

きっと、あと十年、十五年も経てば
自分ひとりで生まれて
親の助けなどまるでなく育ってきたかのように
ふるまう時も来るのだろうけれど、

いつでもいい。

大人になって、何かつらいことがあったり
冬の寒さが身にしみた時に

「遠い昔、あんなふうに
あたためてもらったな」と
一度でも思い出してくれたなら。

冷たかった手足が
ぬくもりで温められていく・・・

その記憶が、
未来のあなたたちを温めてくれるようにと
祈って毎夜眠りにつく。

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2017.01.23 13:39 Yae
*幸四郎母さん

幸四郎母さん、ありがとうございます。
なんて素敵なーー(^^
膝の上にワンたちを乗せて文章を書くことを
生業とする・・・夢の暮らしですね!

まだ若かった20代の頃、
どんな風が吹いたのか・・・
父がいちばん好きな作家だった方が
わたしの文章を目に留めてくれて
大きな出版社の方からご挨拶があって
担当について下さったことがありました。
「絶対に書くべきだ」と励ましたり、
あれこれと背中を押してくれましたが・・
わたしには書けませんでした。

もっと才能や情熱があれば違っていたかもしれませんが
きっとただ淡々と日々を紡ぐ文章しか書けないんでしょうね。

いつか書きたい。そう思いながら
慌ただしく何年が過ぎてしまったかな。
コメントをいただいて、
いつか・・やっぱり書きたいなぁと
そんな気持ちを思い出しました。

2017.01.23 13:28 Yae
*みささん

みささん、ありがとうございます。
冬が好きで、
「あたためる」ということに対して
思い入れがあって・・
どうしても書きたくなりました。
思いがあふれるような気持ちで書いたので
コメントをもらえてうれしかったです(^^

本にする、だなんてー!
そう言ってもらえてうれしいです。
でも今はすぐに読みなおせるからいいけれど
つなビィさんがサービス終了してしまったら
困りますね・・
続けてもらえるといいなぁ。

2017.01.12 09:32
幸四郎母
やえさん
エッセイを書いて暮らしていったらどうでしょう?
勿論ご自宅で。
わんこたちとモフモフし放題だし、夢の印税生活いたしましょう。
今は無料で読者をしてますがわたし絶対買います。

冬の季節をむかえる地方に飛び立つ飛行機の中で手に取る冊子。
パラパラめくったらやえさんのエッセイが。
そんな日がくるんじゃないかしらと。
いえ 来てほしいなと勝手に思っています。

2017.01.11 20:51
みさ
こんばんは(^-^) 読んでたらウルウルしてきてしまった。。やっぱり やえちゃんのブログは
本にして出版して欲しいなあ(笑)

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